斉藤博昭
映画ジャーナリスト
9/2(火) 8:15
1972年公開(日本は翌1973年公開)の『ラストタンゴ・イン・パリ』は、センセーショナルな性描写が話題になりつつ、アカデミー賞では監督賞・主演男優賞にノミネートを果たし、芸術性が高く評価されるという、映画史に残るアンビバレントな一作。そして評価を超えて「問題」になった作品として知られる。
偶然出会った中年男と若い女性がセックスに溺れていくこの物語で、監督のベルナルド・ベルトルッチは、主演女優に予告ナシで、ある重要なシーンを撮影した。
それは……当時48歳で世界的トップスターのマーロン・ブランドが、19歳のマリア・シュナイダーのズボンを脱がし、バターを手に取ってアナルセックスを強要するシーンだ。
不意を突かれ、床に倒されたマリアは恐怖のあまり涙を流して抵抗する。ベルトルッチ監督は、彼女が受けた屈辱感、本物の涙を映像に収めたくて、事前に知らせなかったのだ。
50年前とはいえ、こんな撮影が許されるのか?
当然のことながら、この撮影はマリア・シュナイダーにとって大きなトラウマとなる。それだけでなく彼女の俳優としてのイメージも勝手に作られ、極端な役が多くオファーされてキャリアが形成されていく。マリアは2011年、58歳でこの世を去った。
この『ラストランゴ・イン・パリ』での顛末は、現在に至るまで様々な問題を投げかけ続けている。
・撮影現場で、演じる側に精神的ダメージを与える演出
・その後『ラストエンペラー』でアカデミー賞に輝き、巨匠となったベルトリッチへの評価は正しいのか?
・俳優の突発的な反応を引き出すことは、芸術の意義として許されるのか。
などなど。ようやく近年、インティマシー・コーディネーターによって性描写などの撮影にケアが入る流れが作られた。「芸術のため」「新たな表現を求めて」という大義も、個人に深い傷を与えてはいけない……。
それを改めて訴えようとしたのが、フランス人監督のジェシカ・パルー。『ラストタンゴ・イン・パリ』の例のシーンの撮影、マリア・シュナイダーの運命を再現した映画『タンゴの後で』を撮り上げた。
「私自身、天地がひっくり返るほどの衝撃を受けた」とパルー監督が語るのは、映画製作のきっかけとなった、マリア・シュナイダーの従姉妹、ヴァネッサ・シュナイダーが書いた一冊の本のこと(「あなたの名はマリア・シュナイダー:「悲劇の女優」の素顔」)。
「今から50年前にマリアはすでに声を上げていたのに、誰も耳を貸そうとしなかった。50年前と現在で、状況は何も変わっていないのです。完全に社会問題。そこで手記と同じように、マリアの視点から事実を描こうと決意しました」
そこからパルー監督はリサーチを開始し、『ラストタンゴ・イン・パリ』の現場を経験したスタッフや、マリアの素顔を知る人から直接話を聞き、真実のドラマを世に送り出す。そして「どの証言者に聞いても、マリアの人生を変えたのは、あの瞬間だったことが一致した」というのが、例のシーンの撮影であった。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f38933c3e4826d4d1bcab41b84fbc9bb44c95b7f
若き巨匠に、現場では誰も声を上げることができず…
引用元: ・【特集】バターも使う性暴行シーンを、19歳女優に知らせず本番撮影…で70年代の傑作に。深刻さを改めて訴える
夢と狂気の世界だって酔ってるからね
バカらしい業界だよ
性的なものはリアルじゃないとだめとかいう矛盾
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