ただコメ備蓄には費用を要する。日本はエネルギー安全保障のために石油を備蓄しているが、石油(原油)は備蓄しても品質が低下しない。
しかしコメは備蓄すると品質が落ちる。「もう一年経てば家畜の餌」なる発言をして非難を浴びた野党党首がいたが、実はそれは正論である。
長期間備蓄したコメはまずくなるので、政府は家畜の餌として畜産業者に廉売していた。安心のためにコメの備蓄量を増やすことは税金の無駄遣いにつながる。
もう一つの方法はコメを輸入することである。冷害によってコメ生産量が大きく低下した1993年に日本はコメを緊急輸入した。この時は多くをタイから輸入したが、タイ米は長粒米であり日本人の口に合わなかった。
1994年が豊作であったあったことから、緊急輸入したコメの多くが翌年に廃棄されてしまった。
そもそも日本人が好む短粒米は日本以外では韓国や中国東方部の一部、そして米国のカリフォルニア州でしか栽培されていない。その生産量は長粒米に比べて圧倒的に少ない。
そして昨今、世界の人々が寿司を好んで食べるようになったために、短粒米は品薄状態にある。緊急事態だからといって日本人の口にあうコメを大量に輸入することは難しい。
そして考えなければならないのは、農業の生産性向上である。戦争中に作られた食糧管理法は戦後も長く存続した。食管法の時代、米価は国が決めた。もし食管法が生きていれば今回のような高騰は起きなかったであろう。
だが食管法は社会主義農政そのものと言ってよい。いつの時代でも社会主義では生産性は向上しない。その結果として日本のコメ価格は国際価格を大きく上回るようになってしまった。
それを改革するために昭和末期から平成にかけて多くの議論が行われて、現在のようなシステムが出来上がった。現在は減反制度も廃止されて、基本的には市場経済の下で米作りが行われている。
米流通において農協が強い力を持つなど、令和になっても昭和のシステムが色濃く残っているものの、米は市場経済の下で作られている。市場経済に価格変動はつきものである。
今回の米価格高騰を受けて今後のコメ政策をどうすべきだろうか。その方向を指し示すことは難しい。本稿では最後に次の2点だけ指摘しておきたい。
まず、5キログラムが2000円でも日本のコメは高いと言うことだ。FAOデータから計算すると2023年の米国のコメ輸出価格は882ドル/トンである。1ドル150円で計算すると5キログラムが662円になる。米カリフォルニア産の短粒米の品質は日本のコメに引けを取らない。
もう一つは、アジアの農村は貧しいという事実である。アジアの農村はコメを作ってきたが、経済が発展する中で、どの国の農村も貧しくなってしまった。現代において農業は儲かる職業ではない。
今回の高騰に際して農協を悪者にする論調をよく耳にするが、そのような主張をする人々は「地方創生」をどのように考えているのだろうか。筆者は過去35年ほどアジアの農業について研究してきたが、アジア諸国には日本の農協に相当する組織がない。
似たようなものがあっても弱い。そのためにアジアの農民は日本の農民より政治的にも経済的にも弱い立場に置かれている。それが農村をより貧しくしている。
今回のようなコメ価格高騰は一筋縄で解決できる問題ではない。筆者は今回の高騰は、経済の基調がデフレからインフレに変わる局面で生じた一つのエピソードに過ぎないと思っている。
秋になって新米が出回り価格がそれなりの水準に落ち着けば、人々は他の物価も上がっているのだから、この程度の値上がりは仕方がないと思うようになるだろう。

引用元: ・【川島博之・元東京大学大学院農学生命科学研究科准教授】家畜の餌発言をして非難を浴びた野党党首がいたが実はそれは正論である、長期間備蓄したコメはまずくなるので政府は家畜の餌として畜産業者に廉売していた
言う言葉じゃないのだよ
弁当やスーパーの総菜食べてるやつに「それ10時間後にはゴミやで、10時間後ゴミになるやつ食べてんのか」とは言わんやろ
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