『追憶の現場』より #5橋本 昇 高木 瑞穂 12時間前
「私は世界でいちばんの金持ちのファシストである」――好々爺のような外見とは裏腹に、政財界のドンとして大きな影響力を駆使した右翼のドンこと笹川良一氏。
彼はいったいどんな人物だったのか? 報道カメラマンとして活躍する橋本昇氏の新刊『追想の現場』(鉄人社/高木瑞穂編)より一部抜粋してお届けする。

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私は世界でいちばんの金持ちファシスト
昭和の時代、よくテレビから流れたCM――まといを振り振り“戸締り用心火の用心~”と歌いながら練歩く爺さまの姿を、はっきりと覚えている。
CMの最後には、競艇が水を押し分けて疾走した。あの爺さまはいったい誰なんだろうか? 後に知った。日本船舶振興会会長・笹川良一氏だった。
つまり私の頭のなかにある笹川氏のイメージは「モーターボートの爺さま」だった。だが、善良そうに見える顔の裏には「日本政財界の裏の顔役」「巨万の富」「火薬の匂いがプンプンする怪しい人物」──そう、右翼のドンという顔があった。
自らについて笹川氏は、米誌『TIME』のインタビューで「私は世界でいちばんの金持ちのファシストである」と語った。
1989年、『週刊文春』のグラビア企画で笹川氏を取材しようということになった。あの「戸締り用心」のCM、さらに続編の「老母を背負い神社の階段を登る」CMがとても印象的だったからだ。
ダメもとで日本船舶振興会に取材を申し込むと、すんなりOK。撮影場所は東京都品川区の「船の科学館」近くにある競艇場だった。
その日、アメリカから来たジェットエンジンスーツを背負ったパイロットが空中飛行するイベントがある。それに笹川氏が参加するということだった。
会場に現れた笹川氏は、終始ニコニコの好々爺。白い口ひげに洒落たスーツ。やや小柄な小太りで目がきつい。
しかし、はじめてこの目で見た笹川氏は、偏見なしに曲者、油断大敵。握手をすると腕ごと取られかねないような人間。ビー玉のような眼が一瞬、キラリとスパークした。
あらかた撮影を終えると、私に一つのアイデアが浮かんだ。「笹川さん、ついでにジェットスーツを背負ってくださいませんか。ヘルメットも被って」とリクエストすると、
「おー! いいぞ。やるやる」と笑いながら力んだ。さすがドン、太っ腹だ。いや、案外洒落の分かる人間のようだ。
https://bunshun.jp/articles/-/78170?page=2
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引用元: ・【特集】 子分は児玉誉士夫、A級戦犯として刑務所に入れられたことも…右翼のドン・笹川良一(享年96)の“破格すぎる人生”
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