若者の財布離れ

財布はもういらない？

財布なんて、もういらないのかもしれない――そんな価値観の変化を象徴する現象がネットで話題になっている。

100円ショップで売られているビニール製の透明なポーチやジップ付きの袋を、財布代わりに使う人が増えているというのだ。Xを中心としたSNSでは「＃100均財布界隈」というタグが流行っており、若い世代の女性を中心にブームになっている模様。

100円ショップで売られている透明なポーチはカードの仕切りや小銭収納スペースもなく、一見すると簡易的な収納アイテムにすぎないが、特に若年層の間では「これで十分」という声が多いようである。

この流れの背景には、電子マネーやQR決済といったキャッシュレス化の普及がありそうだが、それだけではなく、高級ブランドの財布がかつて持っていた「ステータス」や「こだわり」の価値観が変わりつつあるのかもしれない。

そこで今回は実際に100円ショップのポーチを財布として使っているインフルエンサー女性に話を聞いた。

「＃100均財布界隈」が拡散中
今回Xで話を伺ったのは、20代女性の@T_T53bさん。

彼女は、100円ショップで売られているビニール製の透明ポーチを財布代わりに使うスタイルを「＃100均財布界隈」と命名した本人だという。

「100円ショップのポーチを財布代わりに使い始めたのは、約2年前からです。私は普段、小さいバッグを持つことが多いのですが、普通の財布はコンパクトなものでもかさばってしまい、少し不便に感じていました。

そんなとき、100円ショップでちょうどよさそうなポーチを見つけて使い始めたところ、思った以上に快適だったんです。バッグの中で場所を取らず、軽くて、お札もピッタリ入る。デメリットといえば、ネイルが長いと小銭が取りにくいことくらいでしょうか。高級財布のように気を使う必要もなく、気軽に使えるのも魅力です」

こうした実用性の高さから、「＃100均財布界隈」はじわじわと広がりを見せているようだ。

「現金は何かあったときのために常に入れています。ただ、小銭が増えすぎると当然ながら重くなってしまうので、少額の支払い時やお釣りが出そうな場面ではキャッシュレス決済を使っています。実際、私の友達も『100均財布』をキャッシュレスと使い分けている子はけっこう多いですね」

「SNSに100均財布を使っていると発信してみたところ、思っていた以上の反響がありました。『私も100均のポーチを財布にしています！』という声がたくさん届いて、逆にこんなに仲間がいたんだと驚きました(笑)。私のまわりにはオタ活をしている友達が多いんですが、オタ活仲間の間ではかなり多くの子が100均財布を使っているようです。『＃100均財布界隈』というタグは説明する際に適当に付けただけだったものの、今では普通に広まっていてうれしいです」

実際、彼女のSNSには同じような利用者のコメントが多数寄せられている。

《私も100均のやつ財布にしてます笑どうしても分厚い財布がバッグに入らなくて一時的に使っていたら意外と使いやすくて愛用してます笑♡》

《100均財布界隈でクレカそのまま入れるの抵抗ある方、ダイソーにあるスキニング防止のカードケースおすすめです　クレカの番号も見えないし身分証もそれにいれてます》

また、100円ショップの店員らしきSNSユーザーからこんな証言もきていた。

《百均店員です！レジしてる時にお客さんの財布が目に入りますが、サンリオやディズニーのクリアポーチを財布やコインケース代わりにしている人(特に若い子)めっちゃ多いです　可愛いな〜って思って私もキティちゃんのポーチ買って真似したら、親に「そんな丸見えなのやめな」って言われて普通の財布に戻しました、、》

高級ブランド財布への率直な気持ち
「＃100均財布界隈」が広がるなかで、高級ブランドの財布に対する意識も変わりつつあるのだろうか。@T_T53bさんに、高級財布に対する率直な気持ちを聞いてみた。

「やっぱり高級ブランドの財布には憧れはありますし、デザインを見て『かわいい！ほしい！』と思うことはあります。ブランド店で素敵な財布を見かけると、つい手に取ってしまうこともありますね。でも実際のところ、他に欲しいものがあったり、推し活や旅行などにお金を使ってしまったりして、なんだかんだ2年間も百均財布を使い続けてしまっています(笑)。

もちろん、高級ブランドの財布を持つことに価値を感じている人がいるのもわかりますし、私自身もいつかは持ちたいなとは思っています。そろそろちゃんとした財布も持ちつつ、100均財布と併用するのもいいかな、とは考えています」

高級ブランドの財布に対する反骨精神のような感情で100均財布を使っているのかとも思ったが、どうやらそういった意図はない様子。

「(高級ブランド財布への反骨精神のような感情は)全くないです！　高級財布に対して否定的な気持ちは一切ありません。『これがほしい！』と思うものがあれば、高級ブランドのものでも普通に買いたいですね」

「今は昔ほど財布を取り出す機会がないというのも大きい理由になっていると思います。電子マネーやQR決済を使うことがほとんどで、現金を使う場面がかなり減っているんですよね。財布を持つにしても、コンパクトなもののほうが使い勝手がいいと感じますし、現金をあまり持ち歩かない人も多いので、自然と『100均財布』のようなものが受け入れられたのではないでしょうか」

100均財布が選ばれているのは「財布にお金をかけたくない」という理由ではなく、「現代のライフスタイルに合っているから」ということのようだ。若い世代を中心に財布自体の存在意義が薄れてきており、“必需品”ではなくなってきているということだろう。

最近は、大手100円ショップでは人気キャラクターポーチの種類も増えているようだ。オシャレとして取り入れている人もいるのだろうか。

「私はオシャレだと思ったことはなくて、あくまで実用性を重視して、ただ使いやすいから使っています！　ファッションの一部として楽しむというよりは、シンプルに利便性を求めて選んでいる感じです。でも、好きなキャラクターのポーチを選べるのはかわいいですよね。推しのデザインのものを持ち歩けるのは、ちょっと気分が上がりますし、そういう意味では楽しみの要素もあるのかもしれません。

実際にXでは『私も使っています！』と共感するコメントが多く寄せられていますが、その写真を見てみると人気キャラクターが印刷されたデザインのポーチを活用している人が大半でした。100均財布は、自分の好みに合わせたデザインを楽しめる、グッズとしても機能しているのかもしれません」

――高級ブランドの財布を持つことも、100均のポーチを財布として使うことも、それぞれのライフスタイルに合った選択肢のひとつ。かつては「財布=しっかりしたものを持つべき」という価値観が主流だったが、キャッシュレス化が進む現代では、財布に対する考え方も多様化しているということだろう。

(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)