それはわれわれへの福音となるのか。ノンフィクション作家・奥野修司氏のレポート。
「アルツハイマー認知症(アルツハイマー病)はヘルペスウイルスによる感染症の一種であるという考え方は1980年代からありましたが、最近ではこの説を支持する論文がたくさん出ています。やがてアルツハイマー病はワクチンで予防できるようになるかもしれません」
こう言うのは東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター)元副院長の松下哲氏(88)である。
松下氏は昨年、『アルツハイマー認知症は抗ウイルス薬と帯状疱疹ワクチンで予防できる』(三省堂書店/創英社)という本を出版した。
一般的にアルツハイマー病はアミロイドβというたんぱく質によって引き起こされるといわれているが、同書はそうでなく、多数の疫学研究(病気などに関して人間の集団を対象にした調査・分析)論文を紹介しながら、多くの人が感染するヘルペスウイルスが原因だと指摘している。
それによると、単純ヘルペスウイルス(HSV。口の周りや性器などに水疱を発生させる)などが長期の潜伏期を経て現われ、脳内で炎症を起こした結果がアルツハイマー認知症なのだそうだ。
松下氏は、定年後に関わった特別養護老人ホームで多くの認知症の人と接したことからヘルペスウイルス原因説について調べ始めたのだという。
もしもアルツハイマー認知症がヘルペスウイルスによって発症するなら、すでにウイルスの増殖を抑える薬やワクチンもあるのだから期待ができる。そのうえワクチンは、今年の4月から予防接種法に基づく定期接種になる予定で、費用負担も軽減されるはずだ。
そこで、抗ウイルス薬による認知症予防の研究は現時点でどこまで進んでいるのか、松下氏に尋ねた。
現在、アルツハイマー認知症の原因はアミロイドβ、というのはほぼ常識になっているが、これは1980年代にアルツハイマー認知症の病変といわれた脳内の老人斑がアミロイドβで構成されていることが分かり、90年代になって「アミロイドカスケード仮説」として広く支持されてきたからだ。
実は、同時期にカナダの神経病理学者が、人に感染したヘルペスウイルスが記憶に関わる大脳辺縁系に侵入・感染して炎症を起こしていたことから、アルツハイマー病は単純ヘルペスウイルスによる感染症が原因であるという仮説を唱えたのだが、残念ながらこちらはあまり注目されなかった。
それでも一部の専門家には説得力があったらしく、各国で研究が続けられていた。それが今世紀にはいってブレークスルーになる研究が次々と発表されたのだ。松下氏はその一つを紹介してくれた。
「2016年にドイツの神経病理学者ブラーク夫妻らは、ドイツの大学病院でアルツハイマー認知症の脳の病理解剖2332例を調べました。驚くべきその内容は、(アルツハイマー病を)発症する前からアミロイドβよりも先に、変異したタウというたんぱく質が蓄積し始め、その最終段階でアルツハイマー認知症が発症するという事実でした。つまり、アルツハイマー認知症が発症するのは、アミロイドβが原因ではなく、変異したタウの蓄積の結果なのです。さらに症状の進行も、変異タウの蓄積と比例していたのです」
「2021年から23年にかけて英国や米国の施設など4カ所で帯状疱疹ワクチンを接種した群と接種しなかった群を追跡調査しています。接種したのは、高齢者が帯状疱疹を発症すると神経痛の後遺症が残ってひどくなるからです。結果は、接種した方はアルツハイマー認知症の発症が有意に少なくなっていました。ただ接種年齢が高かったせいか、結果は貧弱(ハザード比が0.65~0.91)でした」
ハザード比が0.65なら決して「貧弱」とは思えないのだが……。
これらのデータを背景に、ワクチンを接種するならアルツハイマーを発症する前の50歳代がいいと松下氏は言う。
「アルツハイマーを発症する前ならワクチンは効果的ですが、発症してからではワクチンの効果は弱いのです。発症後はやはり抗ウイルス薬でウイルスの増殖を抑えることです」
https://news.yahoo.co.jp/articles/c5004d58bfcaffa56d1a546783e5aea73a6b78e4
引用元: ・【ワクチンを接種するなら50歳代】東京都老人医療センター元副院長の松下哲氏 「アルツハイマー認知症はヘルペスウイルスが原因、予防には帯状疱疹ワクチンが有効」
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