米国で1万2000人の肺がん患者を対象とし、2017年に発表された調査では、喫煙未経験者の割合が20年間で8%から15%に増えていた。
英国の研究でも同様に、肺がん患者で喫煙したことがない人の割合が2008年の13%から2014年には28%に跳ね上がった(編注:日本では、肺がん患者のうち男性7.5%、女性75.1%に喫煙歴がなかったとする研究が2013年に報告されている)。
その原因は様々だが、一つ重要な要素として大気汚染が挙げられると、国際肺がん学会は指摘する。
米公益企業ファースト・ストリートの報告書によると、米国では、8300万人が汚染された大気にさらされており、2054年までにその数は50%増えると予測されている。
また、米国では肺がんによる年間の死者数が約12万5000人にのぼり、これは乳がん、大腸がん、子宮頸がんによる死者をすべて合わせた数よりも多い
(編注:国立がん研究センターによると、日本の肺がんによる死者は2020年には7万5585人。男性の部位別がん死亡数の中では最も多く、女性では大腸がんに次いで多い)。
これほど死者が多いのは、肺がんは見つかった時には進行していることが多いためだ。米国立がん研究所によると、米国では肺がんの74%がステージIIIまたはIVで発見されているという。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は2018年に、大気汚染は「新たなたばこ」だと発言している。
大気汚染の最大の原因のひとつであるPM2.5は、大きさがわずか2.5マイクロメートル(髪の毛の太さの約30分の1)以下の粒子だ。これがたばこの煙と同じように肺の奥深くまで吸い込まれ、細胞内のDNAを傷つけ、がんのリスクを高める。
台湾の大気には、WHOが安全と考える量の4倍のPM2.5が含まれている。その排出源は自動車の排ガスや石炭火力発電所、石油化学工場などだが、風に乗って中国本土から飛来する有害物質もある。
おまけに山の多い台湾は、汚染物質が閉じ込められてしまうような地形になっていると、国立台湾大学病院雲林分院の胸部外科医であるリアン・クアンスン氏は指摘する。
喫煙未経験者がかかる肺がんで最も多いタイプは、肺腺がんだ。
「喫煙者に多いタイプの肺がんは、白いビー玉がたくさん入った袋に黒いビー玉を1個入れたように見えます」と、米エール大学胸部外科部長のダニエル・ボッファ氏は説明する。
「一方、たばこを吸ったことのない人のがんは、黒い砂を入れたようです」。はっきりした境界線がなく、ぼやけて見える傾向があるという。
肺がんの原因は喫煙だけという誤解が広がっているせいで、たばこを吸ったことがない人は、病気が最終ステージに進行するまで気づかないことが多い。
しかも、肺には神経終末がほとんどないため、がんが成長しても痛みや不快感を感じにくい。「肺がんの最も一般的な症状は、症状がないということです」と話すのは、国立台湾大学の元学長で呼吸器科医の楊?池(ヤン・パンチ)氏だ。
台湾ではすでに、肺がん検診が早期発見につながるという証拠が示されている。台湾の全土で、ステージIIIとIVで初めて肺がんが見つかる割合は2006~2011年の間に71%だったのが、2015~2020年の間には34%にまで下がっていた。そしてその分、早期発見の割合は増えた。
その結果多くの命が救われたと、楊氏は強調する。肺がんの5年生存率は、22%から55%へと2倍以上に上昇した。
ちなみに、米国がん協会によれば、米国では現在、肺がんの5年生存率は25%だ(編注:国立がん研究センターがまとめた院内がん登録生存率集計によると、日本では2015年診断の5年生存率は45.1%)。
引用元: ・【PM2.5で肺がんが世界で増加】風に乗って中国本土から飛来する台湾では患者の2/3が非喫煙 「大気汚染は新たなたばこ」
新たなタバコってなんだよ
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