連日、全国紙やワイドショーで報じられるクマによる人的被害。この影響は全国各地に及んでいる。
「環境省によると、今年度4~9月までの、北海道を除いたクマの出没件数は2万792件。中でも4005件と全国で2番目に多い秋田県では、10月28日に鈴木健太知事が防衛省を訪れ、小泉進次郎防衛大臣に自衛隊の派遣を要請しました。これを受け、11月5日から自衛隊員が現地で箱わなの設置などを行っています」(全国紙社会部記者)
翌6日に秋田県で開かれた東北高校駅伝競走大会では、出場予定だった学法石川高校(福島)が、秋田県内での相次ぐクマの出没を理由に出場辞退を発表している。
「10月28、29日には岩手大学の敷地内でクマが目撃され、両日ともに臨時休校となりました。周囲を山林に囲まれた青森公立大学でも、今年6月に3件のクマの目撃情報が寄せられています」(前同)
学びの場をも脅かし始めたクマの恐怖。その生息域は東北地方だけでなく、首都圏にも広がっている。
東京都環境局の担当者が言う。
「今年に入って、都内でクマが目撃された件数は241件です。クマが出没するのは西多摩地域で、奥多摩町、檜原村、あきる野市、日出町、青梅市、八王子市となります」
4月1日から9月30日時点で37件のクマの目撃情報が寄せられているという青梅市の農林水産課農政係の担当者が話す。
「ちょうど今も、クマの出没先を見回りして来たばかりなんです。クマによる被害は農作放棄地で目立ちます。それこそ手入れされていない柿の木なんかがあると出現しやすいですね」
こういったエリアにはクマ檻を設置し、駆除を試みているという。
「目撃情報が出た場合は、警察官と猟友会の方、それと市職員の5~6名で現場に向かいます。近年では人間の生活圏の近くで、クマの目撃が増えた印象です」(前同)
その一端を本誌記者が垣間見たのは次の瞬間だった。それまで電話越しに穏やかだった担当者の口調が一変し、緊張を帯びたのだ。
「えっと、(取材は)時間かかりますかね? また、今、クマ出ちゃったみたいなんです。1回、電話切りますね。すいません」(同)
この日、担当者が通報現場に出向くと、周辺の柿の木にはクマの爪痕が残っていたという。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b074aa4f2cf121a0be17c0918c39c9edcfc24e89
引用元: ・冬眠前が一番危険!元旭山動物園園長は「人間はタンパク源として狙いやすい」と警鐘 [567637504]
■人間はタンパク源という事実
環境省の担当者が、クマが住宅街へと頻繁に姿を見せる理由を推測する。
「要因として大きいのは、今年のドングリが凶作だということ。それと、開発が進んだことにより森と住宅街の間で緩衝地帯の役割を果たしてきた里山が日本から激減したこと。
つまり、環境の変化でクマが人間と遭遇する確率が上がったというわけです」
また、クマが街中で頻繁に目撃されるようになった背景に、別の害獣の存在を指摘する声もある。
「シカです。野生鳥獣による森林被害面積は、年間に全国で約5000ヘクタール。このうちの約7割前後がシカによる被害なんです」(前出の全国紙社会部記者)
北海道庁によれば、2023年度のエゾシカの生息数は73万頭。環境省によれば、22年度に本州以南で生息するニホンジカは246万頭と報告されている。合計すると、300万頭以上のシカが日本国内で暮らしている計算だ。
「シカは樹木を容赦なく食べ尽くす性質がある。それにより、クマの食べる木の実がなくなってしまった」(前出の全国紙社会部記者)
元旭山動物園園長で、札幌市環境局参与の小菅正夫氏が話す。
「庭にサクランボやリンゴの樹を植えるとします。人間が生活している間は、クマも近くにまでは寄ってこない。
しかし、過疎化が進んだ地域では空き家になることも多く、農作放棄地となった土地の木の実を食べたクマは、山の中にいなくても人間が暮らす土地に来ればエサがあると、味を占めてしまうわけです」
また、増えすぎたシカは別の問題も引き起こしているという。
「シカの数が増加したことで車にひかれる個体も増えた。これらの死骸を食べたクマはシカの味を覚えてしまったんです」(前同)
アニメや映画の中では、ハチミツや木の実を食べる大人しい動物として描かれているクマ。しかし、野生のクマは肉食もする雑食動物なのだ。
「シカは栄養価が高いし、消化もいい。シカを食べることで、クマも本来持つ野生の姿を取り戻した」(同)
一方で、シカは逃げ足が早いことから、クマにとっても捕獲は困難を極める。
「人間の味を覚えたクマは、シカに比べると、はるかにのろまな人間のほうが、タンパク源として狙いやすいと考えられます」(同)
人肉の味を覚えたクマ。その存在は、かつて目撃されることがなかった大都市圏へも近づいているという。
【後編】「遭遇したらうつ伏せに」「クマ絶滅の地」九州も危ない!専門家が語る「全国危険クマ出没エリア」では、東京、名古屋、大阪といった大都市圏へのクマ出現の可能性、
そして1957年にツキノワグマの死骸が見つかったのを最後にクマの姿が見られなくなった九州へのクマ上陸の可能性やクマに遭遇したときに取るべき対策を専門家が解説する。