「山奥はスギとヒノキばかり。こんな森では野生動物が生きられない。猟師の俺から言わせるとクマが増えたのではなく、人間が餌場を奪った結果、里に下りてきている」。語気を強める杉本さんは近年は年3回ほどクマを見かけるという。町内を含む県内でも目撃情報は寄せられるが「よく遭遇する人はいちいち通報なんかしていないよ」と実情を明かす。
全国的に戦後の拡大造林によって各地で針葉樹のスギやヒノキが植えられたが、安価な輸入木材の流通拡大や需要の低下により伐採されず放置され、山には密集した人工林が広がる。このような日が差さない森では若草が育たず、動物の餌が乏しい状態が続いているという。
この現状を変えようと、杉本さんは10年前、狩猟仲間などに呼びかけ、広葉樹であるクヌギの実(ドングリ)を集めて苗を育て、森に植える活動を始めた。しかし、近年はドングリがなかなか森で見つからなくなり、苦慮していたという。
そんな折、昨年に孫で猟師の鈴木康之さん(38)が松田町を車で走行中、偶然ドングリを踏んだ音に気付いた。降りて確認すると一面にドングリが落ちており、杉本さんに連絡。半信半疑で現場に向かった杉本さんは二つの買い物かごがいっぱいになるほどのドングリを集めることができた。ひっそりと立つ数本のクヌギを見上げて「何年も探して見つからなかった幻の木だ」と息をのんだという。
杉本さんらはこのドングリ約2千個を自宅の畑にまき、苗木を育てた。高齢のため、西丹沢周辺で狩猟を行う豊猟会の豊田里己会長(67)に後を託し、取り組みは本格化。今年3月には、ボランティアら約80人が大野山周辺でクヌギの苗木約1400本、クルミ約100本を植樹した。豊田会長は「森がスギやヒノキばかりだと、クマもシカも餌を得られない。多くの人にこの現実を知ってほしい」と話す。
杉本さんらは今後、庭で育てた「幻のクヌギ」の苗をクマ被害が続く地域に配布し、全国で森の再生を広げていく考えだ。「クマを駆除するより森の改善を。クマだって人間を避けて生きたいんだ。共に生きられる山を取り戻したい」と力を込める。
大野山では杉本さんが10年前に植えたクヌギが実をつけている。地道な努力が確かに実を結びつつある証しだ。人と野生動物が調和する森を目指して、猟師たちの挑戦は続く。
苗木の提供や活動への協力などに関する問い合わせは、山北町農林課。
[カナコロ 神奈川新聞]
2025/11/1(土) 23:10
https://news.yahoo.co.jp/articles/452f775f61e5257e80bc91bb60eaa02b4e3bd3c8
引用元: ・「クマだって人間を避けて生きたいんだ」 “餌得られる山に” 神奈川の猟師たちが奔走 [煮卵★]
神奈川県山北町の猟師たちが、クマによる人身被害を防ぐため、山奥に広葉樹の植樹活動を継続しています。
戦後の拡大造林で人工林が増え、クマの餌場が奪われたことが、人里に下りる原因と指摘されています。
今年3月には、ボランティア約80人がクヌギ約1400本、クルミ約100本の苗木を大野山周辺に植樹しました。
🔍【解説】
記事が指摘する「拡大造林」とは、戦後の復興期に木材需要を満たすため、成長の速いスギやヒノキなどの針葉樹を広範囲に植林した政策です。
針葉樹の人工林が密集すると林床に日光が届かなくなり、クマの餌となるドングリなどの広葉樹の実や下草が育たず、野生動物の餌が乏しくなります。
🌐【論点】
クマの駆除や捕獲といった緊急対応だけでなく、長期的な視野で生態系のバランスを取り戻す「生息環境の改善」に、どの程度の資源と予算を割けるかが問われています。
☕【ひとこと】
クマとの共存を目指す猟師たちの姿を見ると、真の狩人とは、獲物ではなく環境を狩る者なのかもしれません。