この研究では、進行した肺がんや皮膚がんの患者を対象に分析を行い、免疫療法の開始から前後100日以内に新型コロナのmRNAワクチンを接種したグループは、接種しなかったグループに比べて生存期間が(肺がんでは中央値が)約2倍になるという驚くべき関連性が観察されました。
さらに研究チームは既に「第III相臨床試験」という大規模な実験的研究(最終的な効果を人間で確認する試験)を準備しているとのこと。
もともとは感染症対策として開発されたワクチンが、なぜがんの治療にも役立つ可能性があるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年10月19日に『European Society for Medical Oncology Congress 2025』にて発表されました。
研究チームは最初に、実際に治療を受けている患者さんたちの医療記録を詳しく調べるところから始めました。
調査の対象になったのは、アメリカのテキサス大学MDアンダーソンがんセンターという施設で、2019年から2023年までにがんの免疫療法を受けていた1000人以上の患者さんたちです。
特に対象としたのは、進行した肺がんと悪性黒色腫(メラノーマ)という種類の皮膚がんでした。
この研究で最も重要だったポイントは、新型コロナウイルスのmRNAワクチンを接種したかどうかでした。
具体的には、免疫療法の治療を始める前後100日以内という比較的短い期間に、このワクチンを接種していた人と、接種しなかった人のその後の生存期間を比較したのです。
すると、非常に興味深い差が見えてきました。
例えば、進行した肺がんの患者さんの場合、ワクチンを接種しなかった人たちの生存期間の中央値(生存者を順に並べて中央に位置する人の生存期間)が約20.6か月でしたが、ワクチンを接種した患者さんたちでは約37.3か月まで延びていました。
つまり単純計算で(肺がんでは中央値が)約2倍近くも生存期間が延びるという、はっきりとした差が確認されたのです。
また皮膚がんのメラノーマでは、生存期間の中央値はまだはっきりとは出ていませんが、3年間の生存率で見ると、ワクチンを接種しなかった患者さんでは約44%だったのに対し、接種した患者さんたちでは約67%に改善しました。
さらに、比較のためにインフルエンザや肺炎のワクチンを接種した人のデータも調べましたが、こちらはがんの生存期間に明確な改善は見られませんでした。つまり、この「コロナのmRNAワクチンだけ」に特別な仕組みが働いている可能性が出てきたわけです。
さらに研究者たちが特に驚いたのは、本来「免疫療法が効きにくい」とされている患者さんたちでの大きな効果でした。
今回の発見の本質を一言で表すなら、「誰もが知っている新型コロナワクチンが、意外にもがん治療を後押しする可能性を秘めている」ということになります。
ただの感染症予防のために作られたはずの一本のワクチンが、がん患者さんの生存期間にここまではっきりとした差をもたらす可能性があるとすれば、それは患者さんにとってかけがえのない命の時間を生み出す、非常に価値ある朗報となるでしょう。
しかも、この研究で使われた新型コロナのmRNAワクチンは、すでに世界中で何十億回も接種されており、安全性や副作用についてのデータが多く蓄積されています。
つまり、新しい薬を一から開発するのとは違い、すでに手元にある道具をうまく再利用して治療効果を高められる可能性があるのです。
研究チーム自身も、この点を非常に重要だと考えており、「幅広い患者さんに使える汎用的な免疫強化剤(免疫ブースター)」として、コロナワクチンの可能性に大きな期待を寄せています。
現在、研究チームはさらにこの可能性を確かめるために、「第III相臨床試験」という大規模な実験的研究(最終的な効果を人間で確認する試験)を準備しています。
もしこの試験で効果がはっきりと証明されれば、免疫療法を受ける多くの患者さんにとって、新型コロナワクチンを治療プロトコル(標準的に使われる治療計画)に取り入れる道が現実味を帯びてくるでしょう。
本来なら治療効果が期待できなかった免疫療法を、身近にあるワクチンという手軽な方法でより効果的にできるとすれば、医療分野における大きな前進と言えるでしょう。
大したことなさそう。
俺ならどうせ死ぬんだから無駄金使わずに早い方がいい