「令和の米騒動」を機に低収入や担い手不足にあえぐコメ農家の苦境が伝えられる昨今。将来の食糧危機すらも危ぶまれる中、注目すべき研究が進んでいます。それが、太陽光パネルの下でコメを育てるソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)。
東京大学大学院の加藤洋一郎教授らが実際の田んぼを長期間モニタリングして発表した研究結果では、収量が平均23%下がった一方、総収入は5倍以上となる可能性があると試算されています。コメ危機打開に向けた有効打となり得るのか、加藤教授に話を聞きました。
引用元: ・【朗報】米農家、田んぼをメガソーラーにすれば収入5倍になると試算、東京大学 [422186189]
「時給10円」のコメ農家を救う一手となるか
今回取り上げるのは、東京大学大学院農学生命科学研究科の加藤洋一郎教授らの研究グループが今年4月に発表した研究結果です。同グループは2018年から23年にわたる6年間、茨城県筑西市の水田で調査を実施。田んぼの面積の27%を太陽光パネルで覆った水田と通常の水田で、稲の収量や品質などを比較しました。
その結果、コメの収量は年平均で23%減少。その一方で、コメの売り上げと売電収入を合わせた総収入は通常の稲作の5倍以上になる可能性があるという試算結果になりました。私たちはこの結果をどう受け止めればいいのでしょうか。加藤教授は次のように語ります。
「まず、ソーラーシェアリングで稲作を行うことは可能であるものの、簡単ではないということがわかったと言えます。収量が良かった年の結果だけを取り上げてメリットが強調されることもありますが、6年間の平均で見るとやはり収量は減っていますし、雨が多い年は特に収量が落ちるなど、年ごとのバラつきが大きく不安定でした。
そうした課題がある一方、売電収入の経済上の利点が非常に大きいこともわかりました。調査にご協力いただいた農家さんも『この太陽光発電がなかったらジリ貧で、この先も長く農業を続けられる可能性は極めて低かった』と話していました」
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資材価格や燃料費などが高騰する中、コメ農家の手元には利益がほとんど残らないと指摘されています。
農林水産省の統計資料によると、主に水田で耕作する農家1経営体あたりの1年間の農業所得はなんと1万円(2021、2022年)。平均労働時間である1000時間で割ると「時給10円」にしかならないとも指摘されています。2023年の調査では農業所得は9.7万円と少し上昇したものの、依然として大変厳しい水準です。
一方、今回の実験で太陽光パネルを設置した水田では、コメの販売収入に加え、固定価格買取制度(FIT)による売電収入がありました。太陽光パネルを設置した水田1ヘクタールあたりの平均総収益は年1870万円。比較対象にした通常の水田では年130万円だったため、実に14倍以上の収益を生み出していました。
ただし、調査で使った太陽光パネルは2016年に設置されたもので、FITの売電価格は1kWhあたり32円とかなり割高でした。この価格はその後下落し続けていますが、2025年時点の売電価格である1kWhあたり10円で計算しても、通常の水田の5倍以上の収益を得られるという試算結果になりました。
「日本の水田の多くは平地にありますから、送電網などへの接続を考えても比較的条件の良いところが多い。太陽光パネルを設置する初期費用を考えても長期的には元がとれるので、コメ農家の収益性は上がると考えています。
太陽光パネル下の水田では田植え機やコンバインを用いた作業がしづらいのではないか、と心配される声をよく聞きますが、この点での支障はありませんでした。
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農業を持続可能なかたちにしていくためには現状を守るたけではなく、もっと積極的に新しい価値を創造する『攻めの農業』を展開していく必要がある。農業の中で食料だけでなくエネルギーも生産するソーラーシェアリングは、その方法の一つです」
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