今年5月にも、大阪で行われたボクシングの試合で選手が急性硬膜下血腫を生じ、緊急手術を行ったことが報じられています。
JBC(日本ボクシングコミッション)と日本プロボクシング協会は、2人の死亡を受けて緊急会議を開き、再発防止策などについて協議したようです。
減量のために水分を控えることによる体への影響なども指摘されていますが、ここではコンタクト(接触)スポーツの安全性について、考えてみたいと思います。
急性硬膜下血腫とは、打撲など頭部に強い衝撃を受けた際に、脳の表面の血管が破れて出血する病気です。脳を包む硬膜と脳の間に血がたまり、脳を圧迫します。
発症すると、意識がもうろうとする、激しい頭痛が続く、吐き気が止まらないなどの症状が表れます。時間が経つにつれて症状が悪化しやすく、一刻も早い手術が必要になります。
ボクシングのように頭部への打撃を繰り返し受けるスポーツでは、脳の血管が傷つきやすく、普段なら問題ない程度の衝撃でも出血を起こすリスクが高まります。
そのため、選手の安全管理が極めて重要になるのです。
実は、頭部への衝撃が繰り返されるスポーツの危険性は、近年の研究で次々と明らかになっています。
2015年の映画『コンカッション』ではアメリカの法医学者、ベネット・オマル医師が、元アメリカンフットボールのNFL(National Football League)の選手の脳から慢性外傷性脳症を発見し、その危険性を公表しようとする実話を基にしており、ウィル・スミス主演で注目を集めました。
アメリカではNFL選手を長期間調査した結果、元選手の認知症リスクが一般の人の約3倍高いことがわかりました。
また、サッカーでも同様の研究がスコットランドで行われ、約1万2000人の元プロ選手を21年間追跡したところ、認知症の発症率が一般男性の約3倍に上ることが判明しました。
アメリカでは毎年28万人以上の子どもがスポーツによる脳損傷で病院を受診しており、そのうち約半数がサッカー、ラグビー、アメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツによるものだと報告されています。
こうした状況を受けて、海外では具体的な安全対策が進んでいます。
イングランドでは、10万人を超える子どもを対象とした調査をきっかけに、2024年から小学生年代のサッカーで意図的なヘディング練習を原則禁止しました。
中学生以上でも週1回以下、1回の練習で10回以下に制限しています。
この対策により、年間の頭部衝撃回数を従来の数百回から数十回レベルまで減らすことに成功しています。
アイルランドのラグビーでは、タックルの高さを肩から胸の下に制限する試験を2シーズン実施し、頭部への衝撃が30~40%減少したため、この対策を継続することを決定しています。
NFLでもタックルのルールを変更し、キックオフの方法を改善した結果、選手の脳震盪(のうしんとう)件数が17%減少し、データ集計を開始した2015年以来、2024年シーズンには最も少なくなりました。
また、注意喚起することで、2012年から2018年にかけて、コンタクトスポーツによる小児の救急外来受診が32%減少したという成果も報告されています。
日本でも2019年のラグビーワールドカップや東京オリンピックを機に、スポーツ安全への関心は高まりました。しかし、安全対策が十分に普及したとまではいえないのが現状です。
令和時代の学校の部活動や地域のスポーツクラブでは、昔ながらの「根性で乗り切れ」「少しくらい痛くても我慢しろ」といった指導方法は少ないでしょうが、最新の科学的な安全対策の導入は必ずしも追いついていない面がまだあるでしょう。
また、指導者の多くは競技経験を豊富に持っていても、最新の医学知識については詳しくない場合が多く、適切な研修が急務となっています。

引用元: ・【アメフト、サッカー】ボクシング試合で2人死亡」から考える”コンタクト(接触)スポーツと脳の安全性” 研究でわかった頭部への衝撃が繰り返される危険性、元選手の認知症リスクが一般の人の3倍
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