待ち受けた農家が「農家が稼げるコメの単価でお願いします」と直訴すると、農相経験がある石破は「生産者と消費者どっちの前でも同じことを言う農政をやりたい。農業が次の時代に続くよう一生懸命努力する」と約束した。
この懇談は、参院選の福島選挙区に出馬した自民の森雅子(60)の応援で来県した石破側が「生産者重視の姿勢を示す」(周辺)ために開催を要請した。
高騰したコメ価格は、政府備蓄米の放出効果で下落に転じた。消費者は好感したが、福島などのコメどころでは、収入が減りかねないと懸念する農家も多い。自民と蜜月関係を築くJA(農業協同組合)でも不安の声が出ている。
4日に同市で開かれた森の集会では、地元のJA組合長が「備蓄米の価格が新米の価格になれば、農家はコメづくりをやめてしまう」とクギを刺した。森は何度もうなずいたが、直後の演説でコメ問題に触れなかった。
「農業者が働いたお金で家族で楽しく暮らせるようにしたい」と唱えたこともあるが、選挙戦での言及は少ない。「生産者と消費者双方への配慮を伝えきれない」(陣営幹部)ためだ。
自民と農家に生じた微妙な距離に好機を見いだそうとしているのが、立憲民主党の石原洋三郎(52)だ。「農家が『やっていける』と思える農業を訴えている」と強調し、農業票の取り込みを図っている。(敬称略)
「自民党に対する厳しい風が吹いている。深く反省し、出直していく」
法相や少子化相を歴任し、福島選挙区で4選を目指す自民党の森雅子(60)は6日の福島県田村市での集会で危機感をあらわにした。
党勢低迷に加え、所属した旧派の政治資金パーティー収入の政治資金収支報告書への不記載問題で批判を浴びたためだ。公明党は推薦を出さず、「強力なる心情的支援」(県本部)にとどめた。
そんな逆風下の森が気をもむのが、自民の支持基盤といえる農業票の行方だ。JA(農業協同組合)職員ら約7000人で構成する県農業者政治連盟(県農政連)から推薦は得た。ただ、JA内では、コメ価格引き下げの旗振り役となっている農相の小泉進次郎(44)が志向する農政改革への警戒感が根強い。森は「心配している農家が多い」と漏らす。
日本大震災後の風評被害に苦しんできた福島の生産者は、とりわけ価格動向に敏感だ。
6月15日、当時、県農政連委員長だった管野啓二(72)は南相馬市に足を運んだ小泉と向き合い、「生産者、流通業者、消費者がそれぞれ納得できる価格」が必要だと迫った。
コメ問題に向ける目線は、消費者と生産者で異なる。それゆえ、森は小泉農政の評価に踏み込むことに慎重だが、そろりと農家寄りの立場をアピールし始めた。
9日にはインスタグラムに「私の祖父母も農家だ。農家が農業を続けられるような価格に落ち着くように頑張ります」と投稿した。
福島を含む東北6県はいずれも改選定数1の「1人区」で、自民は情勢で守勢に回っている。自民執行部は「福島は死守したい」とし、最重点区に位置づける。
首相で自民党総裁の石破茂(68)は7日、4日に訪れた白河市の市長、鈴木和夫(75)の電話を鳴らし、「首長さんが頼りなので力を貸してください」と頼み込んだ。
対する立憲民主党の石原洋三郎(52)の陣営は、「消費者目線の改革だ」と小泉農政を攻撃する。立民幹事長の小川淳也(54)は4日、郡山市の街頭に立ち、政府備蓄米の放出を進めた小泉に矛先を向けた。
「人気があるから悪口言うのは怖いけど、放出しているのは、あんたのコメじゃない。有事に備えた頼みの綱だ」
5日、矢吹町の農産品直売所前。石原は農家ら約70人を前に、政府・自民の農政批判を繰り広げた。「コメ不足は今までの政治の結果だ。農業が盛んで地方が元気だったら、問題は出てこない」と断じ、今回の参院選が、コメ政策の「大きな分岐点になる」と呼びかけた。
2009年から12年に民主党衆院議員を務めた石原はこの日の演説で、民主党政権が実施した「農業者戸別所得補償制度」にも触れた。立民は、この制度を拡充し、農地面積に応じて交付金を払う新制度を公約で掲げる。石原は周囲に「農家から制度導入を望む声が届く」と手応えを語る。
農家が安定した収入を得られ、消費者が安心して購入できるコメ価格。その両立に必要な改革は何か。明快な答えは見つからないまま、「令和の米騒動」で揺れる農業票の争奪戦が熱を帯びている。
https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20250710-OYT1T50000/
引用元: ・【コメ騒動で揺れる農業票・・・東北6県はいずれもカギ握る1人区】小泉農政、農家は収入が減りかねないと懸念
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