コロナウイルスの遺伝情報を持たせた合成mRNAを体内に打ち込むと、細胞に取り込まれてウイルスの抗原タンパク質を生産し、人体の免疫機能がそのタンパク質に対する抗体を作り出す、という仕組みです。
アイデア自体は以前からあったらしいのですが、実現したところが画期的でした。
さらに今年は日本のメーカーが、世界初の「レプリコンワクチン」を発売しました。レプリカーゼという酵素の働きで、体内でmRNAのコピーが作られるというものです。mRNAは体内で急速に分解されてしまうのですが、コピーが作られ続けるお陰で見かけの分解速度が遅くなり、それだけワクチンとしての効果が高まるとされています。
ただ、新型コロナは怖い病気ではなくなってきました。しかもワクチンは有料(65歳以上で約7000円、それ以外は1万数千円)です。そのためわざわざ打つ人が激減してしまい、せっかくのレプリコンワクチンも、良かれ悪しかれその威力を示す機会を逃してしまいました。
しかしmRNAワクチンの技術は、新型コロナのみに有効というわけではありません。国内外のメーカーが、別の感染症に対するmRNAワクチンの開発に挑んでいます。
なかには日本国内で治験が進んでいるワクチンもあります。代表的なものは季節性インフルエンザです。新型コロナと抱き合わせて、1回の注射で済むようにしたものが、治験の第Ⅲ相まで進んでいます。
ほかにもノロウイルス、サイトメガロウイルス、RSウイルスをターゲットとしたmRNAワクチンの治験が行われています(いずれも第Ⅲ相)。
また海外ではHIVに対するワクチンの開発も進められています。
ノロウイルスは冬の食中毒(胃腸炎)を引き起こすことで知られています。変異が速く、ワクチン開発は無理と言われていただけに、もし成功すれば受験生をはじめ多くの人が恩恵を受けるでしょう。
RSウイルスは子供の風邪ウイルスの一種ですが、大人や高齢者にもうつることがあり、体力や免疫力が落ちていると重症化するケースがあります。
これらの新しいワクチンの治験は、早いものでは2025年中、遅いものでも2027年中に終了し、国の審査を経て、上市されてくるはずです。
さらにその後も、新しいmRNAワクチンが続々と開発されてくることでしょう。ワクチン新時代の幕開けです。
永田宏長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。
引用元: ・【ワクチン新時代の幕開け】新型コロナ以外の国内治験も進みmRNAワクチンが発展する
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