一部では、生活のダウングレード(格下げ)を余儀なくされる消費者もいる。今年の独身の日セールは、中国の消費者の不安な心理を改めて確認する機会になったといえる。その背景には、不動産投資がけん引してきた中国の経済成長が限界を迎えたことがある。
2020年8月、中国政府は不動産業者に対する資金規正=“3つのレッドライン”を実施した。デベロッパーの資金繰りは悪化し、マンションなどの資産価格は下落した。
土地の利用権譲渡益で財源を得てきた地方政府の財政は悪化した。地方政府の隠れ債務である“地方融資平台”や、融資平台向けのローン債権を組み入れた理財商品などのデフォルトリスクは上昇。債務問題は深刻化し、住宅ローンなどの返済優先を迫られる家計などが増えた。
中国政府は“共同富裕”のスローガンを掲げ、民間企業や富裕層に慈善事業への関与を増やすよう求めた。2021年以降は、IT先端分野の民間企業に対する締め付けも強化している。いずれも企業のマーケティング戦略には逆風だ。
引用元: ・もう「爆買い」できません…消費低迷の中国に忍び寄る「リストラの嵐」 [662593167]
■中国政府による的外れな経済対策節約志向は、経済指標からも確認できる。
10月、中国の消費者物価指数は前年同月比0.3%上昇した。ただ、耐久財の物価上昇率はマイナス傾向だ。対照的に、中国料理に欠かせない豚肉の価格は、ここ5カ月間で10%を超えて上昇している。
豚肉を除くと中国の消費者物価指数は、すう勢的に前年比マイナスの可能性が高いとみられる(政府は消費者物価指数を構成する品目ごとのウェイトを開示していない)。
9月下旬以降、景気の減速を止めるため中国政府は経済対策を実施した。金融政策では、利下げや本土株の価格維持のための資金供給が実施されている。財政面では、国債、地方債の発行を増やした。
ただ、相変わらず、国有・国営、EVなどの民間大手企業の生産能力の引き上げを重視しているようだ。
地方政府は傘下の地方融資平台の債務の一部を肩代わりするため債券発行枠を拡大したが、政府は投資と生産を奨励する政策に積極的だ。
現時点で、政府の経済対策の中に消費の喚起に直接つながる政策は見当たらない。今年のハロウィーンで、当局は上海市繁華街での仮装を禁じた。政府の政策を批判、揶揄するような仮装を防ぐ狙いがあったのかもしれない。中国政府は、国民の自由な発想、表現を尊重して新しい需要の創出に取り組むより、政治体制の維持・強化を優先しているようだ。
戸籍制度も、消費を圧迫する要因だろう。中国では、都市と農村によって戸籍が分かれており、医療や年金などの社会保障の内容は戸籍によって異なる。財政悪化から社会保障を見直さざるを得ない地方政府もあって、これも節約志向の高まりに拍車をかけている。
■リストラの嵐が吹き荒れるか…不動産バブル崩壊の負の影響は、他の産業も侵食しつつある。
11月19日、値下げ競争の激化から中国製紙業5位、山東晨鳴紙業集団(シァンドン・チェンミン・ペーパー・ホールディングス)は全生産能力の7割を止めた。資金繰りの悪化や粗利率(マージン)の低下で、生き残りをかけたリストラを実施せざるを得ない企業も今後増えるだろう。
若年層を中心に雇用機会は減少し、結婚する人の数も減少傾向にある。こうした状況下で政府の需要喚起策の実行が遅れると、経済の縮小均衡化は加速し、国民の政策不信が上昇する恐れもある。
10月、中国の新築住宅価格は、全体の90%にあたる63都市で下落した。
企業の設備投資などの動向を示す固定資産投資は、年初来累計で前年同期比3.4%にとどまった。11月中旬時点で、政府が拡充したマンション在庫の買い取り策や、ローン金利引き下げなどの効果が明確に出ているとは言いづらい。
12月、EV、PHVなど“新エネ車”の購入補助策は終了する予定だ。終了に備えた駆け込み需要で、10月の新車販売(前年同月比7%増、5カ月ぶりプラス)は押し上げられた側面もあるようだが、今後は大きく落ち込んでもおかしくない。
■中国が孤立化していく
中国政府は生産能力の拡大を重視し、鉄鋼、医療機器、EVなど広範な分野で輸出競争力を高める方針を続けている。この政策が続くと中国の過剰生産能力は一段と増すだろう。中国から安価なモノが流入している、アジア、アフリカ、南米などで自国産業の保護を重視する政府が増え、中国が輸出で景気回復を目指すことは難しくなることも懸念される。
米国では、共和党が大統領・上下両院の多数派を占める“トリプル・レッド”が実現した。トランプ氏は、米国を世界最大・最強の製造国にすると主張している。対中関税の引き上げ、半導体などの禁輸措置を重視している。中国企業が米国、および主要先進国の企業が持つ知的財産、製造技術にアクセスすることは難しくなりそうだ。
先端分野などで米中の対立が先鋭化し、サプライチェーンが不安定化することも中国企業の業績懸念を増幅するだろう。自由な環境の獲得を目指して、脱中国に動く企業や個人も増加傾向だ。中国国内では、消費が停滞しデフレ圧力がさらに高まることも懸念される。
本年の独身の日セールは、そうした変化の予兆にも見える。
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