https://news.yahoo.co.jp/articles/d39c1646e44d9c48030326c469036d184146719d
9月の自民党総裁選に向けた一連の候補者討論会の一コマで、高市早苗氏が「ネット(差し引き)でみたら日本の財政状況はG7で良い方から2番目だ。見方を変えれば全然問題ない」と発言し、関心を引かれた方もいるだろう。
新聞報道は次のように伝えている。「資産と債務を合わせた純資産の国内総生産(GDP)比で主要7カ国(G7)で日本は2番目に健全だと訴える。鈴木俊一財務相は道路など市場売却できない資産を多く含み『適切ではない』と説く」(日本経済新聞、9月25日付)。
残念ながらこの報道記事内容は不十分で、問題の全体像が語られていない。今回はこの問題を取り上げて解説しよう。
引用元: ・日本の財政健全性「G7で2位」の真偽。負債過多は本当か? [662593167]
● 日本の政府・公的部門は資産超過か、負債超過か
国際通貨基金(IMF)はかねてより1980年まで遡及して世界各国政府(一般政府部門)のグロス金融負債残高、並びに金融資産・負債の差額である純負債を各国通貨建て、並びに名目GDP比率で開示している。データは各国の財務省から提出されるものだ(IMF World Economic Outlook Database, April 2024)。このデータについては後述する。
それに加えて2018年以降、「公的部門の資産・負債(Public Sector Balance Sheet)」(以下「PSBS」と記載)として、中央政府と政府関連法人全体を対象に、固定資産を含む包括的な資産・負債状況を各国通貨建て、並びに名目GDP比率で試算、開示するようになった。
IMFの当該サイトでは「中央政府」「一般政府(=中央政府+地方政府+社会保障基金)」「非金融公的企業」「政府系金融機関」の4つのカテゴリーの資産・負債と、最後にそれら全てを統合した連結ベースのPSBSが示されている。
日本について見ると最新では2020年末の資産・負債が示されており、連結ベースのPSBSでは、日本は純負債ではなく、純資産48兆円(名目GDP比9%)と高市氏が述べた通りだ。
ところで、日本の財務省も「国の財務書類」としてIMFのPSBS同様に一般政府部門に政府系機関まで含めた連結ベースの資産・負債を年度ベースで作成、開示している。これで2020年3月末の連結貸借対照表(資産・負債表)を見ると、資産・負債差額は523兆円の純負債である。
同じ政府部門全体を対象にしているはずなのに、IMFデータでは純資産、日本の財務省資料では純負債と正反対で、その差額は571兆円と巨額だ。これはどういうわけだろうか?もちろんIMFの日本に関するデータは日本の財務省が提供しているものだ。
IMFは暦年末、財務省は年度末ベースなので、ぴったり照合しないのだが、例えば日本の公的部門の「現金・預金残高」は、IMFデータでは152兆円(2020年末)であり、財務省データでは127兆円(2020年3月末)、166兆円(2021年3月末)である。時点のずれを一致させれば、双方は一致すると見て良いだろう。
>>2
● 財務省データとの相違の主因
大きな乖(かい)離が生じている最大の項目は、固定資産残高である。IMFデータでは983兆円(2020年末、固定資産と土地の合計)だが、財務省データでは土地を含む有形固定資産は277兆円(2020年3月末)、280兆円(2021年度末)と約700兆円も乖離している。巨額な乖離の原因は、日本の財務省データの固定資産は取得原価ベースで計上されており、IMFデータは何かしらの「時価ベース推計値」が使われているからであろう。
ただし政府・公的部門が保有する固定資産は、土地でも建築物でも、株式と同じような流動性のある市場での時価は成り立たない。恐らくIMFのデータでは当該資産を再調達する場合のコストである再調達原価ベース(replacement cost basis)などを使って、かなり大胆な想定のもとに推計評価しているのだと考えられる(これは公会計論の分野であり、当該分野に詳しいわけではない筆者にはこれ以上の詳細は分からない)。
毎年度の財政赤字が累積した日本政府のグロス負債残高の大きさとそのGDP比率の高さばかりを強調する「財務省的バイアス」に対して、このIMFデータはもっと包括的な視点で考えることを促す意味がある。
ただし「日本の公的部門は資産超過で問題なし!」と性急に結論しない方が良いだろう。IMF自身が、当該PSBSで資産超過と表示されている場合でも、「公的債務の脆弱性が否定できるわけではない」と釘(くぎ)を刺している。この点をさらに考えてみよう。
まず冒頭の引用新聞記事では、高市氏の指摘に対して、鈴木財務相(当時)が「道路など市場売却できない資産を多く含み『適切ではない』」と反論したと言う。この指摘が、売却できない公的資産は返済の原資になり得ないこと、言葉を変えると流動性の問題を意味したのであれば、的外れな反論だ。
民間企業ならば、債務の返済時に債務の借り換えができず、資産の売却による流動性(マネー)の確保もできなければ破綻する。しかし現代の自国通貨建ての政府債務は、中央銀行によるマネー供給によって原理的には無尽蔵に返済可能である。
例えば中央銀行が発行された国債を購入すれば、期限の到来した国債は償還できる。その際、中銀が政府の国債を直接引き受けるか、あるいは発行後に流通市場で購入するかは、事実上違いはない。
では逆に、政府の国債発行が過大になる問題はないのかというと、問題は起こり得る。経済の供給力が大きく減じた場合は、マネーの供給過多によりインフレの高進、場合によってはハイパーインフレが起こる危険がある。
実際、戦後直後の日本の超インフレは、戦災による総供給力の大幅な減退と戦時国債の返済が重なって起こった。1945年を起点に1949年までに物価は70倍になったと言われる。国債を保有する国民にとってその実質価値(購買力)は70分の1になったわけだが、政府の実質債務も70分の1になったので、政府債務問題は消滅した。典型的なインフレタックスである。
現代の日本でも大規模な戦争や超大地震など100年に一度程度の非常時を考えれば、総供給力が大幅に減退する一方で、中銀の国債購入を伴う国債の返済(マネー供給)が、激しいインフレ高進をもたらす危険は否定できない。そうした稀(まれ)な非常時の場合も考えて政府財政は運営すべきだという意見は無視できない。
>>3
● IMFのデータから外されている金融資産項目
これで分かった。財務省がIMFに報告している一般政府部門の純負債は、金融資産のうち「通貨・預金、負債証券等」以外の資産項目の大半が、ごっそり対象外になっているのだ。
その結果、財務省が「日本の財政関係資料」に記載し、かつIMFに報告している純負債が、日銀が公表している実際の資産・負債の差額と大きく乖離する結果になっている。純金融資産から対象外になっていると思われる大きな項目は株式214兆円、その他持分126兆円(2023年末時点)などである。ただし他主要国も日本の財務省と同様の対応をしているわけではないらしい。IMFはこの点については各国の財務省の裁量に委ねているようだ。
これをもって「日本の財務省は、一般政府部門の資産を過少に報告することで、その純負債を過大に示している。その意図は、『財政再建』のための増税を押し通すためだろう」と考える人もいるだろう。ただ、そう決めつける前にもう少し事実関係を整理してみよう。
まず、中央政府と一般政府の純負債残高の大きな違い314兆円(=839兆円-525兆円)の主要因は、一般政府が社会保障基金を含んでおり、同基金が353兆円の純資産を保有しているからだ。その大半は公的年金の積立金の運用だ。そして公的年金の運用資産額の増加で、社会保障基金は2020年6月から2024年6月の期間中に119兆円も資産額を増やしている。
公的年金積立金の巨額の運用益は、今年行われた公的年金の持続性を検証する財政検証でも、将来の年金給付の「所得代替率」を目立って改善するほどのものになった。
さて、ここでぬか喜びをせずに気が付くべき重大なポイントがある。公的年金の運用資金は資産計上されてはいるが、実際は「純資産」ではない。なぜなら年金運用資産は、将来政府が国民に行う年金給付義務(政府サイドからは国民への債務)を見合いに運用されているからだ。
本来であれば、将来にわたる公的年金の保険金収入と支払い給付金額を現在価値に換算して、それぞれ資産、負債計上すべきだが、現代の公会計では筆者が知る限りどこの政府もそんなことはしていない。前掲のIMFのPSBSもこの点では同様だ。その結果、形式的には「純資産」として計上されているだけなのだ。
この点で前掲の通り財務省が「公的年金預り金などの見合資産は、財政健全化とは直接関係しません」と指摘しているのは正しい。もちろん年金積立金の資産価値が大きく増加していることは、一般政府部門全体の資産・負債が改善していることを意味していることに違いはない。
結論をまとめると、日本の一般政府部門の純負債が絶対額でもGDP比率でも、2020年以降大きく改善している最大の要因は、公的年金運用のポートフォリオ見直しによる資産価値の増加である。ただし、それは将来の年金給付義務(負債)を見合いにした資産であり、決して純資産と見なすことはできない。
反対に庶民は貧乏になってるけど
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