https://news.yahoo.co.jp/articles/1984c0becf3189c90bfa0e55732855e71af3ee52
引用元: ・大コケ映画「ジョーカー2」を責めてはいけない [662593167]
ハリウッドがあいかわらず『ジョーカー』の話題でもちきりだ。ただし、その理由は5年前とはまったく違う。
日本でも報道されている通り、続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、アメリカの批評家に酷評された。ヴェネツィア国際映画祭でのお披露目の後から「評価が分かれるらしい」と言われてきたが、北米公開2日前にロサンゼルスで2回のマスコミ試写があり、大勢の批評家の記事が翌日一斉に出たことで、一気に悪評が広まったのだ。
■観客評価はアメコミ映画で過去最悪
いざ公開されると、シネマスコア社の調査による観客評価もアメコミ映画で過去最悪の「D」。ネガティブな口コミが広がって、日曜にかけて数字が下がり、予想よりさらに低い成績に終わる。このことは業界で大きなニュースになったが、公開2週目に興行収入8割ダウンというDCキャラクター映画で過去最大の落ち込みを記録し、またもやネタを提供した。
この作品が受け入れられなかった理由については、すでに多くの媒体で書かれているので、本稿ではあえて繰り返さない。ここでは、業界人と業界メディアがこの失敗について、なぜここまで大きく騒いでいるのか考察したい。
単純な答えは、まず今年最大の注目作だったから。みんなに見つめられる中で、この映画はハリウッドにおける典型的な失敗をやってしまったのだ。ひとつは、莫大な予算をかけ、赤字にしてしまったこと。もうひとつは、1作目のファンを失望させる続編を作ってしまったこと。なぜそこをコントロールできなかったのかと、人々は疑問を抱くのである。
まず、お金について。ハリウッドのメジャースタジオは、ほかの国では考えられないレベルのお金をかける。だが、予算をたっぷりかけた映画の作り手は、しばしばその話題を避けたがる。失敗した時に格好がつかないからだ。
逆に、低予算で作った映画が成功すると、「お金もかけずにこんなすごいものを作った」と、美談になる。500万ドル以下でオリジナリティのあるホラー映画を作り、たびたびヒットさせるブラムハウスなどは、それ自体がブランドになっている。
オリジナルである前作の『ジョーカー』は、R指定でリスクが高いと判断され、トッド・フィリップス監督は、アメコミのキャラクターの映画にしてはかなり低い5500万ドルしかもらえなかった。にもかかわらず、10億ドルの大ヒットに持ち込み、アカデミー賞を2部門で受賞するという快挙を達成した。まさに美談だ。
一方で、続編には、なんと1億9000万ドル(約285億円)の製作予算がかけられている。オリジナルの3倍以上で、大型アクション映画なみの予算だ。そのうち2000万ドルは、主演のホアキン・フェニックスのギャラ。レディー・ガガとフィリップス監督のギャラは、合わせて3000万ドル以上と言われている。
製作予算とは別に、全世界規模の宣伝広告費が1億ドルほどかけられた。続編の全世界興行収入は現在までに1億6500万ドルで、収支が均衡する3億7500万ドルに達するのは非常に難しいと見られる。
この映画に本当に1億9000万ドルが必要だったのかについては後で触れるとして、フェニックスのギャラが大幅にアップしたのは、ハリウッドにおいて普通のことだと指摘しておきたい。
1作目が大当たりして次を作るとなれば、その俳優が必要。しかも、フェニックスは、まさにその役でアカデミー賞主演男優賞まで獲得している。それに、当たるかどうかわからなかった1作目の時と違い、ある程度の興行収入が見込まれている(皮肉にも、この続編の場合はそうならなかったのだが)。当然、その俳優のエージェントは、強気で交渉する。それが彼らの仕事だ。
フィリップス監督についても、同様。彼の場合は、『ジョーカー』以前にも、『ハングオーバー!』3部作、彼がプロデューサーを務めた『アリー/スター誕生』などで、ワーナーを儲けさせてきた。
伝統的にフィルムメーカーとの関係を大事にしてきたワーナーにとって(当時のCEOジェイソン・キラーがすべての映画を劇場公開と同時に配信すると突然決めて怒らせるまでは、クリストファー・ノーランもワーナーと特別な関係を築いていた)、フィリップス監督は大切にすべき存在のひとりなのだ。
■成功した1作目を踏襲しなかった
それが、ふたつめの点である「1作目のファンを失望させる続編を作った」ことにつながった。
メディア、そして観客からも聞かれるのは、「誰のために作ったのか」「アメコミファンの求めるものを無視している」「なぜミュージカルでやる必要があったのか」という声。
それらは妥当な疑問だ。アメコミのファンは男性が中心で、ミュージカルのファンとは重ならない。それに、せっかく成功した1作目と、わざわざ違うことをやったのである。
正直なところ、フィリップス監督からアイデアを聞いた時、スタジオも複雑だったかもしれない。だが、フィリップス監督は、新しいことをやりたかったのだ。それは彼のアーティストとしての野心。常に自分にチャレンジし続けるフェニックスのためにも、同じことの繰り返しはできないとの思いもあった。
スタジオはそれを理解し、これまでの実績も踏まえて、フィリップス監督の好きなようにやらせてあげようと決めた。そして、そのビジョンを追求するために必要だという予算を出したのである。ジョーカーとミュージカルを融合するというのはユニークなコンセプトだし、またとない芸術的な映画になるかもとの期待もあっただろう。
筆者も、同じ好奇心と期待を持っていた。残念ながら、結果はそうならなかった。今になってから、「コアな観客を無視するなんて、スタジオは何を考えていたのか」「こんなものがうまくいかないのは当たり前」と批判するのは簡単だ。
しかし、1作目と同じことを繰り返す続編を作ったとしたら、これまた批判されただろう。それに、観客の求めるものばかりを重視していたら、良い意味で予想を裏切るものは生まれないのだ。
結局のところ、映画に関しては、何が当たるかなんて誰にもわからないのである。昨年夏、ワーナーは、グレタ・ガーウィグに完全な自由をあげ、『バービー』を大ヒットさせた。おもちゃの人形にフェミニズムをからめた映画が14億ドルの爆発的ヒットになり、アカデミー賞にも候補入りすると、誰が想像しただろうか。保守派の男性たちからバッシングがあったことを見てもわかるように、あの映画にはリスクもあったのだ。
■リスクを取って挑戦することの意義
ユニバーサルも、原爆を作った物理学者についての3時間の伝記映画『オッペンハイマー』を、10億ドル近いヒットに持ち込み、アカデミー賞作品賞まで獲得した。
ワーナーを離れたノーランを呼び込みたかったし、実績がある監督だから、大人の映画は大きく当たらないと言われる中でもゴーサインを出したのだろうが(ユニバーサルは、普段のノーラン映画の予算よりは金額を絞った)、内心は不安だらけだったはずだ。
そんな例が続いたが、それはたまたま。映画作りは所詮ギャンブルで、いつもうまくいくとは限らないというシンプルなことを、『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は思い出させてくれたにすぎない。メジャースタジオには、これを教訓とはせず、フィルムメーカーと新しいことに挑んでいってくれることを望みたい。
ただ、1億9000万ドルと提案されたら、「1億5000万ドルではだめか」くらいは、聞いていいのではないかと思うが。
ブラムハウスはほんとにすごいよ
社長のジェイソン・ブラムの方針
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