攻撃は個人が使う通信機器に介入し、多数を一度に殺傷できることを見せつけた。紛争やテロの惨禍を広げかねない脅威だ。
中東では度重なる紛争で新たな軍事技術や戦術が試されてきた。倫理的な歯止めがさらに曖昧になり、将来の犠牲拡大につながりかねない心配が募る。
爆発の仕組みは分かっていない。ポケベルがヒズボラの手に届く前に、内部に少量の爆発物が仕込まれたとの見方が報じられている。事実なら周到に計画された国家レベルの工作だ。
模倣した犯行が出てくる可能性もある。政府や企業を狙ったテロや脅迫に使われる恐れがあり、犯行予告だけでも混乱は必至だ。
ヒズボラの指導者ナスララ師は戦闘員の通信手段としてスマートフォンでなくポケベルを使うよう求めていたとされる。スマホをイスラエルに乗っ取られるのを恐れたというが、今回はローテクのポケベルが武器に使われた。
こんな手口が現れること自体が中東の緊張激化の異常さを示す。ヒズボラは報復を宣言し、後ろ盾のイランも犯行を非難した。今回の攻撃でイスラエルへの脅威が減ったことには決してならない。
同国首相府はパレスチナ自治区ガザの戦闘の目標に、ヒズボラとの交戦で避難を余儀なくされた北部の住民の帰還を含めると発表したばかりだった。ヒズボラとの交戦拡大が懸念される。
ヒズボラは昨年10月からイスラエルと交戦するガザのイスラム組織ハマスに呼応し、越境攻撃を重ねてきた。ガザの戦闘が続く限り攻撃をやめない構えだ。
これ以上の不毛な報復合戦を食い止めなければならない。イスラエルが北部住民の避難生活を終わらせようとするのは当然だが、そのためにガザの停戦を速やかに実現すべきだ。ヒズボラとの本格衝突は収拾を一層難しくする。国際社会は改めて鎮静化とガザ停戦を全当事者に迫る必要がある。
日本経済新聞
2024年9月18日 19:05
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK185660Y4A910C2000000/
引用元: ・【日本経済新聞】[社説]身近な通信機器が殺傷兵器になる脅威 [香味焙煎★]
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