人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、選挙に寄せる人々の思いを聞いた。
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「これがいまの東京なんですね」
都内の東京都知事選のポスター掲示板を前に、80代の女性は足を止めてつぶやいた。6月20日、ついに東京都知事選が告示された。立候補者は過去最多、56人。
掲示板スペースは48人分、もちろん1人1枚であっても足りない、前代未聞の選挙となった。
「おそろしい時代になったのですね」
彼女と筆者とはもう随分と長いお付き合い、彼女の人生――子どものころ空襲に遭った、女子大を出て教師になった、ずっとこの東京に生きて、昭和・平成・令和と生きてきた。
彼女が「おそろしい」と語るポスター掲示板、後ろで小学生たちがポスター掲示板を指して「あたおか」と笑っている。ネットスラングで使われる言葉、その意味はともかく、子供らに「あたおか」と笑われているのはポスター掲示板の大人たちだった。
「もうついていけません、なんだか悲しい」 彼女は力なく笑った。
「これも『平和』ということなのでしょうね、食うや食わずのお国とか、何でもかんでも捕まえて処刑するようなお国ではないから、こうした選挙ができるのでしょうね」
こうした選挙――ポスター掲示板の半分以上がわけのわからない、都知事選とおおよそ関係ないであろう文言が並び、掲示板の大半を敷き詰めた候補者らの所属する政党では寄付行為を通して枠を一般に販売している。
自分の写真でも可愛いペットの写真でも、営業目的など公職選挙法に定められた禁止事項以外はなんでもOKだ。女性格闘家は候補者でもないのに掲示板に大量に貼られたポスター上、ガッツポーズで笑っている。
他にも4月の衆議院議員東京15区補欠選挙で暴れまくった政治団体の代表も勾留中だが出馬する。別の候補者である元市議は「ほぼ全裸」の女性の写真を女性本人が貼るパフォーマンスで告示日当日、さっそく警視庁から警告を受けた。
お騒がせユーチューバーは都知事選に出ると言って撤回、供託金の300万円を返還してもらったが、結果的によい宣伝になったのではと報じられた。
「選挙で遊ぶな」「落ちるとこまで落ちた」とSNSを中心に多くが嘆き、怒っている。ちなみに政見放送は全員で11時間(!)を超える。
「私が覚えているのは1980年代くらいからですね、あのころ、たくさんの政党があって、政治と関係のない、よくわからないことばかりを言う人たちが政見放送に出ていました。今回ほどではありませんけど『おかしいな』と思った始まりのように思います」
この話、1980年代の国政選挙でUFO党、雑民党、人間党、年金党、老人福祉党、世直し党などの「ミニ政党」が跋扈した時代のことだ。
その主義主張はともかく、10代ながら筆者にも「やばい」と思わされてしまうような政見放送はあった。オウム真理教の真理党は1990年の衆院選で話題となったが、その結果と末路、悲劇は周知の事実だろう。
まさに「異様」としか表現できない今回の東京都知事選のポスター掲示板を二人で眺める、せっかくなので代わる代わる、いっしょに眺める方に話しかけてみる。
「こんな選挙は恥ずかしい、どうしてこうなったのか」(40代・会社員)
「選挙制度がおかしいし、時代にあってない、性善説じゃ無理」(50代・会社員)
「最近の国政だってそうじゃないか、いまの日本にお似合いだよ」(60代男性)
「日本人バカしかいない、面白すぎ。(観光の)外国人めちゃ笑ってた」(20代男性、学生)
「たった300万円で宣伝できるなら安いでしょう、プリウスより安い」(40代・経営者)
引用元: ・【落ちるとこまで落ちたとSNSを中心に多くが嘆き、怒っている】東京都知事選挙、「ほぼ裸」ポスターや立候補しない女性格闘家も、嘆く大人に「あたおか」と笑う小学生たち
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