職業性喘息の一つである製パン従事者の喘息は、食品製造業界における重大な健康リスクだが、あまり認識されていない。主にパンの製造工程において小麦粉の粉じんや酵素などのアレルゲン(アレルギー原因物質)にさらされることで引き起こされ、呼吸器系に深刻なダメージを与え、慢性的な息苦しさや生活の質(QOL)の低下につながる。パンや菓子の製造施設で働く人が特に影響を受けやすい。
広く見られる症状であるにもかかわらず、製パン施設における職業性喘息に対する認識はまだ低く、労働環境の改善は進んでいない。
研究者と編集者が組んで専門家の視点からニュースを伝えるメディア、The Conversation(ザ・カンバーセーション)によると、世界のパン職人の12~26%がアレルギー性鼻炎(鼻水)や結膜炎(目のかゆみ)に悩まされており、15~21%が喘息を発症している。
パン職人の喘息は、小麦粉や穀物(小麦、ライ麦、大麦、大豆、そばなど)、パン作りに使用される添加物や酵素などのアレルゲンに定期的かつ長時間さらされることで気道が炎症を起こすために生じる。卵や粉末卵、ゴマ、イースト、ナッツのほか、ダニやカビのような食品以外のアレルゲンもある。
小麦粉の粉じんはパン工場の大量生産工程の各所に存在し、小麦粉などの原材料をミキサーに投入する、焼き面に小麦粉をまぶす、床や台などの表面を乾拭きして小麦粉を払う、空になった小麦粉の袋を廃棄する、といった作業中に発生する。
パン職人が職業性喘息を発症しやすいことは世界各地の研究で明らかになっている。
フランスの研究チームは、呼吸器専門医から提供されたデータを用い、3年間にわたって330例の職業性喘息を分析した。
欧州呼吸器学会の国際会議で発表された分析結果によると、症例の20%が小麦粉を原因としていた。
ポーランドでも類似の報告があり、職場で呼吸器症状に見舞われたパン職人の44.5%が職業性喘息と診断されたという。
パン職人の喘息はイスラエルでも問題となっている。日刊紙エルサレム・ポストに掲載された最近の記事では、パン職人の喘息について「知られざるハヌカの危険」と書いている。ユダヤ教の祭事であるハヌカの期間中、イスラエルでは3000万個ものドーナツや揚げパンのスフガニアが作られ、その結果、職業性喘息が急増するからだ。
空気浄化装置メーカーのCamfil USA(キャムフィルUSA)の技術材料担当マネージャー、マーク・デビッドソンは「小麦粉の粉じんへの曝露は職業性喘息の主な原因となっている」と断言する。
最近、顧客の製パン店に設置してある装置のフィルターを取り外したところ、約7.7kgの小麦粉が回収されたという。
英国では、パン職人の喘息発症率は、車両工場の技師や工場・機械作業員、料理人、美容師・理容師、溶接工といった他の職業の83.1倍も高いという驚くべき調査結果がある。また、製パン業は英国で最も危険な職業でもある。
英安全衛生庁(HSE)の統計によると、全職種での職業性喘息の新規症例は2007~16年に年間10万人当たり平均0.4人だったのに対し、製パン業では37人だった。
英国のある焼き菓子メーカーは2018年、長期にわたり絶えず健康リスクにさらされた従業員の多くが職業性喘息と診断されたことを受け、16万ポンド(約3200万円)超の罰金を科された。
HSEの調査で、粉じんが空気中に舞い上がり、従業員が呼吸器系のリスクにさらされるのを防ぐ効果的な対策を取っていないことが明らかになった。
衛生検査官は裁判で、一定以上の規模の製造環境で小麦粉の粉じんにさらされることが健康面に及ぼす深刻な悪影響に言及した。
カナダのアルバータ大学で職業疫学を研究するニコラ・チェリーが行った研究によると、小麦粉には酵素の一種であるα-アミラーゼが含まれていることが多い。
プロの厨房では、イーストの働きを良くするために小麦粉を使ったレシピにα-アミラーゼを添加するが、これがアレルゲンとなることもある。
この粒子は、吸い込むと肺組織に留まり、この状態が長期間続くと慢性的な炎症になる。
「パン職人がα-アミラーゼに20年ほどさらされるとアレルギー症状が出ることが判明している」とチェリーは説明する。
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引用元: ・【知られていない製パン業界に多い喘息】他の職業よりリスク大、世界のパン職人の15~21%が喘息を発症
酸化チタンは素手で触ってると指先が荒れるんだよな
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