また、TSMCが熊本に工場を建設したのは、最大の顧客である米国アップルの要請があったとした。
アップルはiPhoneのカメラの画像センサーを供給するソニーに協力し、ソニーの工場がある熊本県菊陽町の近くで半導体を供給することを求めた。
ソニーにとっても半導体の安定調達は大きな課題だった。で、TSMC誘致のために尽力した。ソニーとTSMCの縁はそれだけではない。
この2月のTSMCの第1工場の開所式に登場したTSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は挨拶で、ソニー共同創業者の盛田昭夫氏との縁を話した。
1968年、米国の半導体大手テキサス・インスツルメンツ(TI)の副社長として初来日した張氏は、盛田氏と合弁事業について話し合った際、当時すでに伝説的な人物だった盛田氏から「日本での工場の生産性の高さに驚くだろう」と言われたという。
のちにTIグループの埼玉・鳩ケ谷工場や大分・日出工場をたち上げたときに盛田氏の言うことを実感した。
「その後、李登輝総統に請われて台湾に移住し、87年に新竹ハイテク団地にTSMCを創業したのも、日本と台湾は文化や人材の能力という点で似ているということも理由の1つ」「ソニーの隣で工場をつくるのも、そのときの盛田さんとのつながりもある」―などと語っていた。
TSMCは菊陽町に第2工場の建設も明らかにしている。第1工場ではソニーの画像センサー向けが中心だったが、第2工場では線幅6ナノ(ナノは10億分の1)の先端半導体を生産する。自動運転やADAS(先進運転支援システム)など自動車向けが中心となり、輸出の拠点にもなりそうだ。トヨタも出資するという。
さらに、最先端の第3工場建設についても触れている。菊陽町は現在でも人が増えて人件費や住宅費などの高騰に頭を悩ませているが、将来はもっと大変なことになるかもしれない。
TSMCは最先端2ナノの工場を台湾の高雄にもつくっている。
中国でも江蘇省崑山市に工場があるが、米政府による半導体技術の対中規制などで半導体チップに関税がかけられ、米国に輸出できない状況になった。これも日本に集中している要因だ。
実はTSMCは米国アリゾナ州での工場建設を決めていた。しかし、地元建設業の労働組合との調整が長引いて、まだ動き出していない。日本より早く始めていたが、うまくいっていない。
というようなこともあって、熊本の方がテンポも速く、TSMCにとっては、いま日本が一番頼りになると考えている。もちろん、第1工場だけで総投資額が1兆円を超える熊本の半導体工場に対し、日本政府から出る巨額の補助金も大きな魅力だ。
かつてD―RAM全盛時代にシリコンアイランドと呼ばれていた九州が再び半導体で復活しつつあるのは喜ばしい限りだが、日本の他の地方もAIブームに沸く経済のおこぼれを享受できるよう頑張ってもらいたい。
引用元: ・【大前研一氏】TSMCにとっていま一番頼りになるのは日本だ、九州のみならず他の地方もAIブームのチャンス逃すな
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